ニューヨーク・シティ・セレナーデ

火曜日の夕方は、コミュニティが主催する小さなジャズ・ライブがある。昨日ステージを見に行ったら、ちょうどクリストファー・クロスの『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』を演奏しているところだった。グルーブ感あるアレンジにのせて、女性ボーカルの甘い声を聴きながら、少し心がタイムスリップした。


――ニューヨーク。

以前、仕事で数か月おきに行っていた街だ。「いつかこの街に住みたい」と、本気で思ったこともある。ビジネス、ファッション、アート、舞台…… 街のもつ躍動感は、若いころの自分にはたまらない刺激だった。けれどそんな刺激とは裏腹に、ニューヨークは常に猛スピードで走っていた自分を「リセット」する場所でもあった。そうなる理由には、ある人の存在があったと思う。


年の離れた素敵な友人だった。ニューヨークに行くたびに、私は彼女と街中を散策した。恋のこと、仕事のこと、人生そのもののこと。数か月に一回しか会わないからか、あるいは年齢が違ったからか、理由は分からない。けれど何故か彼女といると、ふっと肩の力が抜けて、誰にも言えない弱みや悩みも、素直に打ち明けることができた。「そんなに足早にしていたら、見過ごしてしまうものもあるよ」――彼女はよく、笑ってそう言った。

そんな彼女と、数年前にカリフォルニアに旅行した。「天国と地球が出会う場所」という言葉でも知られるマウント・シャスタ。彼女がずっと行きたがっていた場所だった。美しい花畑を歩きながら、どこまでも澄んだ青空を見上げながら、私たちは色々なことを語った。ほかの誰にも言えないような秘密――彼女と私の、大切な思い出だ。

一日私達より早く彼女はニューヨークへと戻っていった。「一足先に行くけれど、残りの旅はゆっくりね」という言葉を残して。


その後、旅を急いだのは彼女の方だった。同じ年の12月、彼女はひっそりとその生涯を終えた。今日はそんな彼女の誕生日だ。ニューヨーク・シティ・セレナーデを聞きながら、昨日は一日早い彼女の誕生日を、心の中で祈った。


彼女はだれよりも粋なニューヨーカーだったと思う。エキサイティングでパワフルな街にありながら、そのエネルギーに流されることなく、誰よりも「自分自身」でいることを、大切にしていた。そしていつも「自分自身でいること」を思い出させてくれた。不完全でいても、自分らしいと思える方がいいことを、教えてくれた。


彼女の人生の旅の最後に、一緒に過ごせたことはとても幸せなことだ。

「残りの旅は、ゆっくりいくよ」

Go Tiny!

大切なものが、すべて「半径5メートル以内」にあると気づくと、人生はもっと素敵になる

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